国内旅行市場の縮小傾向、競争激化、上昇し続けるマーケティングやオペレーションのコスト。販売手数料に依存する収益構造の変化に直面する中で、旅行業界にとって共通の課題になっている。JTBが取り組んでいるのは、個人向け商品を展開している「るるぶトラベル」(以下、自社サイト)を「販売機能」から「メディア」へと位置づけ直すことだった。

舞台はWiT Japan 2026のVIPランチセッション。WiT(Web in Travel)は、2005年にシンガポールで始まった、アジア太平洋地域を代表する旅行×テクノロジーのカンファレンスだ。航空会社やOTA、ホスピタリティからテック企業まで、業界のリーダーが一堂に会するその日本版で、Rokt主催ランチに登壇したのが、株式会社JTBでパートナーシップマネジメント部 部長を務める田邉氏。Roktクライアントサクセス マネージャーの川村優嘉との対談で、自社サイトの再定義と、その成果を語った。

WiT Japan 2026 VIPランチセッションのケーススタディに登壇した、JTB 田邉淳氏(右)とRokt 川村優嘉(左)

「販売機能」から「メディア」へ ── Web事業を多角化する

リアル店舗におけるカウンターでの接客の印象が強いJTBだが、消費者にJTBの商品を届ける重要なタッチポイントとしてWeb事業も成長を続けている。田邉氏が統括するのは、ガイドブック「るるぶ」ブランドを冠し、オンライン完結型の予約を担う「るるぶトラベル」。JTBがもつ宿泊商品を提供するサイトとして運営する、国内個人旅行の主力サイトだ。

その背景には、構造的な逆風がある。少子高齢化による国内市場の縮小傾向、競争の激化、そして上昇し続けるマーケティングコスト。訪日旅行が堅調に推移する一方、日本の国内旅行市場は伸び悩む状況にある。

「販売手数料だけに頼るのではなく、ほかの収益源も持つ。収益構造を多角化することが重要だと捉えています」と田邉氏は語る。るるぶトラベルでは、サイトを販売の場であると同時に、顧客との接点を基点とした「メディア」としての活用をより強化する方針を打ち出している。加えて、JTBは2026年4月にツーリズム事業の組織を見直し、Webを基点とする営業体制に改編を行い、事業全体の強化を図っている。

「ノンエンデミック広告」で、付帯収益を拡張

JTBは2024年12月、その一手としてRoktを導入した。

多くの旅行事業者は、宿泊・保険・レンタカーといった自社系列や周辺事業の広告──いわゆるエンデミック(自社)コンテンツを予約完了時に旅行者に提供している。Roktが支援するのは、その一歩外側にあるノンエンデミック広告だ。旅行事業者が持つファーストパーティデータを生かすことで、一見旅行とは無関係に見える広告でも、宿泊予約をした旅行者にとって関連性の高いオファーとして自然な流れで届けられる。

仕組みはシンプルだ。るるぶトラベルで予約が完了した瞬間、その人に合った広告オファーを画面に表示する。Roktはこの瞬間を Transaction Moment™(トランザクション・モーメント) と呼ぶ。予約完了は、旅行への期待感とワクワク感が高まり、集中力も幸福感も最も高まるタイミング。だからこそ価値の高い顧客接点になる。ここにファーストパーティデータを掛け合わせることで、一人ひとりに最適なオファーが届く。

るるぶトラベルの予約完了画面に表示されるオファーのイメージ(右)

田邉氏は、この取り組みがJTBで最初のノンエンデミック広告の実装だったと明かす。

「顧客接点を活用することで新たな価値を創出し、結果としてノンエンデミック広告での収益につながり、得られた広告収入を原資に再投資していく。その投資先がサイトの利便性向上やプロモーション強化です。エンデミックとノンエンデミックは相反するものではなく、両輪として収益構造に厚みを持たせ、結果的にサイトそのものの競争力にもつながっていく。そうしたサイクルにできると考えています」

数字が示す成果

導入後のパフォーマンスは、一般的なデジタル広告の常識値を大きく超えた。

「広告がお客様の行動価値を損なっていないのはもちろん、むしろ新しいものに出会う場を提供できている。お客様の体験を拡張できていると感じています」と田邉氏。運用を担当するメンバーも、その効率の高さを実感しているという。

川村は、この突出した成果の理由をこう分析する。「JTB様はトラフィックの質が非常に高く、サイトとユーザーの間に強い信頼関係が築かれている。だからこそ非常に高い成果が出ています。データを活用した機械学習が、ユーザーに効果的なオファーをマッチングできていることも裏付けになっています」

社内の懸念を、どう乗り越えたか

成果の裏には、慎重な社内合意のプロセスがあった。「弊社は堅実な取組が中心だと印象を持たれていることも多い。自社サイトに広告を載せることには、さまざまな意見がありました」と田邉氏は率直に振り返る。おもてなし・ホスピタリティと広告表示がトレードオフになるのではないか──。論点は大きく三つ、ブランドへの影響、顧客の離脱、そしてプライバシーだった。

  • ブランドへの影響:JTBの広告ポリシーに沿って、掲載できない業種・サービスや競合表記を、ヒアリングのうえで技術的にブロック。厳選されたオファーのみを配信し、ブランド体験を阻害しない。
  • 顧客の離脱:表示はあくまで予約完了後。購買行動そのものに影響を与えない。
  • プライバシー:Roktの組織・技術両面でのセキュリティ体制、利用目的の明確化、同意導線の徹底を社内に丁寧に説明。

「Roktの皆さんに目線を合わせて伴走いただき、一つずつクリアできました。最終的には、この広告がお客様の体験を拡張するというメリットのある取り組みだと、関係部門に説明できたことが大きい」(田邉氏)

川村は、るるぶトラベルのようなパートナーECサイトが安心して利用できる理由として、出稿先とクリエイティブの審査体制を挙げた。

「出稿先は本当に厳選したもののみ。ユーザーにとっても嬉しいプレミアムな広告だけを、コピーを一つひとつ審査したうえで配信しています」

さらに川村は、プライバシーへの懸念はすべての企業に共通し、だからこそ向き合い方が問われる、と続ける。

「ファーストパーティデータをどう使うかが本質です。十分なセキュリティ体制を整え、ユーザーの同意を得たうえで、一人ひとりに最適な体験を届ける。それはデータを扱う企業の責任だと考えています」

メディア化の先に描く未来 ── 2035年長期ビジョンとJapan DMC構想

田邉氏が見据える先は広い。販売機能を充実させながら、顧客接点であるサイトをメディアとして位置づけ直す。この方針は個人事業にとどまらず、法人事業においても世界中の交流に実感価値を創造する「交流メディア」として推進していくなど、全体に通じるという。

予約完了を起点に、自社サイトの価値拡張と他社サイトでの顧客獲得を両軸で進める

JTBグループは2026年1月、2035年を見据えた長期ビジョンを発表。国内とグローバルの事業比率を50対50にするという野心的な目標を掲げる。田邉氏の部門では、デスティネーションジャパンとしての魅力の磨き上げを図り、その魅力を国内外へ届ける「Japan DMC」を目指し、日本人向けの国内旅行を基盤として固めつつ、インバウンドの取扱拡大に力を注ぐ。そのための流通プラットフォームとして、宿泊から各地の体験までをワンストップで提供するシステムを開発し、今年度中のサービスインを目指している。

さらに田邉氏は、Roktを収益化に使うだけでなく、JTB自身が広告主として出稿する可能性にも言及した。「予約完了という瞬間に、我々の商品やサービスがどんな業種・サービスと親和性があるのか、ぜひ確かめたい」

この「収益化」と「顧客獲得」の両面の活用があることこそ、Roktの強みだ。媒体として収益を上げながら、プレミアムな他社ECサイトの購入完了ページで新規顧客を獲得する。販売件数を伸ばし、さらに媒体収益も上げていく──この循環型の活用ができる。グローバルではBooking.comなどの旅行事業者がすでに広告主としてRoktを活用し、高い成果を上げている。

セッションが残した3つのポイント

  1. 予約サイトは「販売機能」だけでなく「メディア」になる。 あらゆる場面を価値に変えられる。
  2. 予約完了画面は、ブランド価値を守りながら収益化できる「眠れるモーメント」。
  3. その成果は、JTBの事例が実証するとおり、極めて高い。 eCPM ¥7,500超、CTR 10%超、収益性は一般的なディスプレイ広告の10〜15倍。

予約完了という見過ごされがちな瞬間に、ブランドを守りながら新しい収益の柱を築く。JTBの取り組みは、その可能性をはっきりと示した。

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