自社のECサイトやアプリ、店舗といった顧客接点を活用して広告を配信する「リテールメディア」の活用が拡大している。日本における先進企業のセブン-イレブン・ジャパンの新規事業推進室 総括マネジャー 杉浦克樹氏と、日本およびグローバルで大手ECの広告事業を通じた付帯収益の創出を支えるRoktのHead of Japan,VP 三島健氏が、リテールメディア戦略の可能性を語り合った。

※本記事は日経ムック 小売業と店舗の最新トレンド2026の記事を転載・編集しています。

国内最大級のアプリ会員を活用して成長戦略につなげる

三島 御社はさまざまな事業に取り組まれていますが、数ある成長戦略の中で、なぜリテールメディアを選ばれたのでしょうか。

杉浦 新規事業については、いきなり大きな投資をするのではなく、既存の顧客接点や店舗、データといった強みを生かせる領域に絞り、成功確率の高いテーマから取り組んできました。その中で、当時会員数が約2000万人規模だった当社のアプリをより有効活用する打ち手の1つとして、リテールメディアに注目しました。

参考にしたのはウォルマートの成功事例です。同社が「モノを売る」という小売りの本業以外の収益源を重視し、その一つとしてリテールメディアで大きな収益をあげている点は非常に衝撃的でした。そのアプローチは日本の「モノ起点」の発想とは異なり新鮮で、リテールメディアは顧客接点そのものでもあるため、当社も「その分野で成長していけるのでは」という可能性を感じました。

三島 本業で築いたアセットを生かして周辺事業を立ち上げ、付帯収益を創出するのは、世界のトップリテーラーでは当たり前の戦略になってきました。中でもリテールメディアはその代表例です。一方で、広告収益を重視するあまり、本業である小売事業の売上や顧客体験に悪影響が出てしまっては本末転倒です。その懸念から、広告事業の導入に慎重な事業者も少なくありません。

杉浦 当社の事業はフランチャイズビジネスである以上、広告主だけでなく加盟店の理解と納得も不可欠です。そのため、販促要素を取り込みながら、結果的に店舗の売り上げにつながりやすい形を模索しました。最初から広告枠を一気に開放するのではなく、慎重に進めた点が、立ち上げ時の大きなポイントだったと思います。

三島 他の広告チャネルと違い、リテールメディアは既に自社店舗で買い物行動中の顧客に広告コミュニケーションを取ることになる。顧客体験を損なわないためには、一人ひとりのユーザーに対してパーソナライズされた、価値のある広告を出すことも大事です。

杉浦 アプリ内の表示内容は、現状では比較的シンプルな純広告の形で運用していますが、今後はより、お客様が利用されている店舗やタイミングに合わせてパーソナライズしてきたいと考えています。

仮に2万1000店舗それぞれで、立地や時間帯、来店中のお客様特性に応じて最適化したコンテンツを同時に出し分けることができれば、これほどスケールの大きいリアルメディアは他にないでしょう。

三島 顧客のその時の状態の理解と、データの分析を通し、それぞれの顧客にとって最も有意義なオファーを提示することで、買い物の瞬間で成立する広告事業が価値を生んでいきます。 Roktでは、ユーザーがECサイトで商品を購入した際に、購入完了画面上で第三者広告主によるオファーを表示するソリューション「Rokt Thanks 」で日本でも多くのリテール・EC企業様の付帯収益創出を支援していますが、顧客体験と高い収益効果を両立できるのは、EC事業者のファーストパーティーデータをAIが分析し、一人ひとりの顧客にとって最も有意義な広告オファーが何かを選び出して提示できるからこそです。

ファネルを飛び越える時代に「これも買いたい」を引き出す

杉浦 リテールメディアの本質は、やはり「売りにつなげる」ことではないでしょうか。顧客が認知や関心といった段階を経て購入に至るプロセスは重要ですが、最近ではSNSで広告を見てそのまま商品購入へと繋がるなど、従来のマーケティングファネルを飛び越えた購買ケースも増えています。

三島 そうした購買行動の変化を踏まえると、リテールメディアの強みは「すでに買い物中の顧客」に接触できる点にあります。その瞬間に、思わず「これも買いたい」と感じてもらえるコミュニケーションを仕掛けられるかがポイントになります。

杉浦 売り場で大量陳列を見て思わず足を止めたり、手書きのPOP(購買時点広告)で関心が高まったり、従業員の「ご一緒にいかがですか」という一言で購入につながったりする。こうした『思わず買う体験』は、やはり現場に強みがあります。そのためリテールメディアにおいても、現場との連携は欠かせません。「アプリで何が配信されるのか」を加盟店オーナー様や従業員さんにきちんと共有することで、来店時に伝える情報と、売り場や商品との連動が生まれます。その一体感が、顧客体験を大きく後押しします。

三島 オンラインショッピングの世界でも、「買い物の瞬間」にいかにユーザーへ価値ある広告を届けられるかが肝心です。 Roktでは、 ECサイトの「購入の瞬間」にユーザーに広告オファーを届けますが、ECで購入ボタンを押すとき、ユーザーは画面に集中し、購買意欲が高まり、同時に多幸感を感じています。そんな瞬間に自分にとって価値あるオファーを受け取れるため、反応や行動を促す力が大きいのです。

顧客体験を維持しながら、リテールメディアを盤石に

杉浦 今後、リテールメディア事業をさらに本格展開していくうえでは、セブン‐イレブンの2万1000店舗という規模を分母にして試行錯誤を重ねることが重要になります。成功事例だけでなく、失敗から得られる学びも含めて、大きな資産になるはずです。

守るべき顧客体験は維持しつつ、その枠の中で挑戦を重ねていくことが、今後進むべき方向性だと考えています。

三島 買い物モード」にある顧客と接触できるリテールメディアだからこそ、媒体となる小売やEC 、広告主、そしてユーザーの「三方良し」という関係性を生むことが出来ます。Roktでは現在、 Roktのパートナー企業のECサイトで発生する年間75億件以上のトランザクションを最適化していますが、さらに多くのEC企業様、広告主様にネットワークに参加いただくことで、生み出せる価値をさらに高めていきます。

結局のところ、リアルかオンラインかの違いはあっても、リテールメディアの成功条件は同じだと思います。顧客体験を損なわず、「買い物の瞬間」に価値ある提案を届けること。そのために、データと学習を積み重ねながら、顧客ごとに関連性の高い内容を届ける精度を磨いていくことが重要です。

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